コミュニティの暮らし|ブラジルの中にある不思議な日本。弓場農場

ひろーいブラジル。サンパウロからバスでずんずん8時間。

緑の大地の中に、そのコミュニティはありました。

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弓場農場(ユバ農場)はブラジルにある日系人の共同体。

日本から遠く離れていながら、日本語が話され、日本的な慣習や文化に沿った暮らしが営まれている場所。

約80年前に、日本から渡ってきた人たちが作り出した弓場農場。現在では、その子孫や、農場の趣旨に共鳴してやってきた人たちが暮らしています。

農場の暮らし


暮らしの中心は農業。皆で分担して農作物や家畜を育てています。野菜畑、果樹園、畜産、炊事、出荷など、各自担当が決まっていて、毎日皆がそれぞれの持ち場に向かいます。

生産品として販売するものだけでなく、コミュニティ内で食べるものも自給。野菜や米、肉、味噌や醤油に欠かせない大豆など、自給率は60〜70%に及ぶそう。(収穫期は90%以上!)

コミュニティ内で食べる生姜
コミュニティ内で食べる生姜
オクラパック詰め
出荷するオクラのパック詰め / photo by Keita

現在ここに暮らしているのは50人弱。家族単位でそれぞれの家はあるけれど、食事や風呂、洗濯などは共同です。

農場の中心になるのがみんなが集まる食堂。朝、昼、晩、炊事担当の人が作った美味しいごはんを一緒に食べます。

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農場の中心、食堂。真ん中のテーブルに集まった料理を、セルフサービスで取ります / photo by Keita
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米も味噌も野菜も、ここのプロダクト
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各家族の家が並ぶ

 

コミュニティ内で自給しているのは、食べ物だけではありません。暮らしに必要な様々を、自分たちで作っています。例えば、洗剤は豚の脂と料理の廃油から作ります。大きな登り窯があり、茶碗や湯呑みも作ります。炊事の燃料となる薪も自分たちで集めます。

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大きな登り窯
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大人数分の料理、薪も沢山使います /photo by Keita

訪問者を受け入れる


弓場農場の理念のひとつに「来るもの拒まず、去るもの追わず」があるのだそう。

僕たちのように、旅行者でも農場に滞在させてもらうことができます。滞在中は、共同体の一員として過ごすことになります。ここに住む人と同じように農作業や炊事を手伝い、同じ空間で食事をいただきます。

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クリスマス時に滞在していた旅行者メンバー

旅行者だけでなく、サンパウロに住む日系の人や、報道関係の人、この場所に興味を持った様々な人が訪れ、時間を過ごしていきます。

ちょうど僕たちが滞在していた一ヶ月間が、クリスマス・年末年始を含む時期。もともと農場に住んでいた人たちや、家族や親戚が帰って来る時期でもありました。仕事や結婚などで、外に出た人たちが、帰る場所にもなっているようでした。

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年末年始は大勢の人で賑わいます / photo by Keita
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クリスマスには、コミュニティのメンバーが作り出す舞台。ここではバレエや音楽、絵画などの芸術活動も暮らしの中にあります
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大晦日の紅白歌合戦。老若男女、積極的に参加します。一曲だけ僕たちもバックで参加させてもらいました / photo by Keita

コミュニティの不思議なところ


この農場には、他にも個性的な特徴がありました。

まず、お金の出入りが個人単位ではないこと。つまりコミュニティでひとつの財布を共有しているということ。
お金の扱い方はオーロヴィルと似ている部分がある。
(→オーロヴィル|お金は要らない?エコビレッジの暮らし方

各自の仕事があってもその収入は、村の会計に入ります。食事やライフラインは共同だからお金は必要ないけれど、どこかに出かけたり、大学に行ったりするのには個別にお金が必要です。そういう場合はコミュニティのお財布を使うのだそう。もともと村給村足に興味があった僕たち。この規模でお金を共有する考え方は共感するし、上手く機能すれば素晴らしいと思います。

ただ、今の弓場農場では、採算が合わないこともあったり、稼いだお金をきちんと会計に出さない人がいたり、改善の余地ありという状況だそう。

 

そして、もうひとつの特徴は、規則があまり無いこと。仕事の強制が無いこと。

コミュニティ内でたくさん働く人もいれば、そうでない人もいます。

同じ食事をして、共同で水や電気を使い暮らしをしているのに、働かないことが可とされていることが、とても不思議でした。この価値観に合わず、コミュニティを出る人もいたそうだけれど、「去る者追わず」なので、出る人の意見は通りづらい。

「逆にそれが良いんだよ。人間らしいでしょ?」

「本当は不満に思ってるよ。けど、どこの組織にだって有益な奴もいればそうでない奴もいるだろ?」

僕たちは、このように達観した考え方には至れませんでした。一ヶ月という短い滞在では、彼らの理念と積み重ねてきた歴史をすべて理解するのは無理があるというもの。もしかしたら、そこに疑問を持つこと自体が、日本的な、資本主義的な価値観なのかもしれません。

 

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ヒゲの模様が不思議な、ジージ。裏の野菜畑は猫の溜まり場

 

笑顔で過ごすこと


このままで良いのかと心配になる部分もあったけれど、部外者の僕たちがそれをどうこう言うことはできません。

80年も続くコミュニティ。問題や課題はあって当たり前。

それらを受け止めてなのか、受け流してなのかわからないけれど、弓場農場の人たちはいつも笑顔でした。

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いつもニコニコ優しい姉妹。カマボコを揚げています
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紅白歌合戦の後の、童謡合戦

楽天的で陽気でのびのびとしたこの農場の空気は、なんとなく、少し前の時代の日本と、ブラジルが混ざったような印象。そんな中で過ごしていると、僕たちの心配は杞憂に思えてきます。

毎日朝から汗を流して労働し、お腹を空かせて美味しいごはんを食べる。お酒を呑んで笑い合い、お風呂に入ってぐっすり眠る。

彼らの営んでいる心地よいリズムの毎日が、とても貴重でかけがえのないものであることは間違いありません。

魅力的な時間を共有させてもらいながら、豊かさの尺度を考えさせられる日々でした。logotatsuya-01

*一部写真は同じ時期に滞在していた 敬太君@ワガママライフ のものを使わせていただきました

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