建築家のいない建築|イラン・石の家と土の家

家って、建物それひとつで、完成するだけじゃなくて、
家と家が集まり、景観を作り出すことで初めて完成することもあります。

イランで出会った、石の家と土の家。

(この記事は「住」の視点から「これからの豊かさ」を考えるメディア、YADOKARI  に寄稿したものです)

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ヴァナキュラー建築


『ヴァナキュラー建築』という言葉をご存知でしょうか?

その土地の気候風土に合わせて生まれ、培われてきた、土着的・伝統的な建物。例えば、東南アジアの高床式住居や、トルコなどにある洞窟住居などが、ヴァナキュラー建築です。

デザイナーがデザインしたものではなく、建築家が設計したものでもありません。そこに住む人たちが、何百年と営まれてきた暮らしに合わせ、自分たちで建てた家。それは、意図されなくても、ナチュラルビルディングになっています。

 

石の家


イランのヴァナキュラー建築。

ひとつ目は、石の家が立ち並ぶパランガン村(Palangan)。首都テヘランから西へ600km、イラクとの国境に近いクルディスタン地方にあります。

川を挟んだ渓谷の両側に、地形を活かした家が建ち並びます。家の壁は石を積み上げてつくり、屋根を支える梁は木製です。

斜面に沿って建てられている為、下の家の屋根が、上の家の庭になります。夕方になると、村の人たちは下に建つ家の屋根に出て、おしゃべりをしたり、景色を眺めたりと、ゆっくりと時間を過ごすのです。

美しい渓谷の村に、流れる川の音と子供たちの遊び声、そしてときどきロバの鳴き声が響きます。

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明かりが灯り始める渓谷
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道は急峻で、渓谷の上の方に住む人は、行き来が大変そう
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車が通れる道は限られているので、ロバが活躍。狭く急な道でも荷物を運んでくれます
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村で出会ったクルド人の少女たち

 

土の家


続いて、土を材料にしたヴァナキュラー建築を紹介します。

テヘランから南へ300km、荒野の中に現れる緑豊かな渓谷、その中にあるアブヤネ村(Abyaneh)。そこにも、ヴァナキュラー建築があります。赤土で出来た日干しレンガを積み上げ、その上からさらに土を塗り固めた壁。窓枠や、柱、屋根を支える梁、内装の一部などには、木材が使われています。

この村だけではなく、イランでは、日干しレンガを材料にした家がよく見られます。土に水と藁を混ぜ、枠に入れて整形し天日で固めて作る日干しレンガは、乾燥した土地に適した、シンプルな材料です。

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傾斜した地形に階段状に並ぶ家々が、美しい景観を作り出す
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積み上げ方を工夫するだけで、開口部の装飾に
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職人技の組み木を使う家もありました

ヴァナキュラー建築の村に暮らす人


イランの人たちは、ホスピタリティーに溢れています。村を歩いていても、「ウチにおいでよー」「チャイ(お茶)でも飲んでいきな」という具合によく声を掛けられます。

お言葉に甘えて家の中に招いてもらうと、外観からの想像以上に快適な空間が広がっていました。下の写真のお宅は、古い家の内部を改装して新しくしたそう。コンクリートや鉄筋を使っています。村を歩いていても、完全に自然素材でつくられた家は実は少ないのです。

時代の流れと施工のコストに合わせ、無理のない程度に、家づくりの伝統を守っている。そんな印象を受けました。

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客間。日本と同じように靴を脱ぐスタイル。椅子やソファーは無く、床に腰を下ろします
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朝食。食事もこのように床に用意していただきます

自慢の果樹園も案内してもらいました。

「何も手入れしなくても美味しいのが山ほど採れるんだよ」

クワ、アンズ、サクランボ、スモモ、アーモンド。どれも美味しく、自然の恵みを感じます。

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大きなバケツが果物ですぐにいっぱいに
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採れたてのスモモとアンズ。甘酸っぱくて美味しい
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屋上に果物を干してドライフルーツに。平らな屋根は、こんな用途にも使われています。

長い間自然と共存してきた暮らしは、本人たちが意識していなくても、持続可能な営みです。それが時代の流れによって、少しずつ村の暮らしも変わってきているようです。

これからどのように歩むのか、見守っていきたいと思います。

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