伊蘭✴︎模様|人と政治と宗教と

イランに足を踏み入れたのは、6月10日。
今年のラマダン(断食月)が始まった直後。
この時期、敬虔なムスリムの人たちは日の出から日没まで、ご飯を食べず、水も飲まない。
気温は40度近く、乾燥した砂漠地帯が多い。

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日中は、涼しい木陰でおしゃべりしたり、チェスをしたり。

失敗したなぁと思ったけど、今さら日程は変えられない。
道を歩けども歩けども、レストランは閉まっていて、夜八時過ぎにやっと開き始める。
日中は、フルーツやパン、お菓子でしのぐ日々。

そうは言っても、イランは夏真っ盛り。
市場では野菜やフルーツが山盛り。トマトと胡瓜も、瑞々しく味が濃い。
ナッツ類やナツメヤシ、チーズやスパイスにオリーブ。色とりどり。

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夕方になると、晩ご飯の準備に急に市場が賑やかになる。胡瓜に群がるおじさまたち。
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ピスタチオの名産地。いろんな種類があるけど読めない。
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お花やスパイス、ナツメヤシ。サフランも名産。

最近のトレンドは、市内に住みながら、郊外に菜園や田舎にセカンドハウスを持つことらしい。
アビヤネ村近くのヤーラント村で、数日お世話になった。
果樹園にはサクランボ、あんず、桃、リンゴ、イチヂク、ピスタチオ、クルミ、アーモンドの樹々。
たわわになった実を、捥いでは頬張りながら、小川の流れる村道を歩いた。

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道の両側から、樹の枝が飛び出してきているので食べ放題。
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食べきれない実は、干して冬に食べる。あちこちのお家で、屋根の上に干していた。

イランの人、ひと、ヒト


イスラム教の教えは、騙さない、嘘をつかない、盗まない、殺さない、困っている人がいたら助ける…
正直で、心優しい人が多いはず…

あれれれ?
なんとか楽に小金を稼ごうとするタクシーや宿の主人との値段交渉の連続。交渉決着したのに、しばらくしたら、また値段つりあげてくる。普通に騙すし、嘘ついてるじゃん!

確かに親切な人もいるけど、強引でひとの話を聞かない大きな親切ばっかり。
迷惑も親切も重量級なイラン。
イランには、中庸っていうか「ほどほど」っていう概念が無いのかな?

さらには、絨毯文化によるダニやノミに蝕まれ…
テヘランから古都ハマダーン(旧・エクバタナ)、クルディスタンを回って、エスファハンに着いたころには、ヘトヘトに疲れていた。

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高校生の頃からの憧れ、マスジェデ・イマーム。十年の時を経てやっと!

日食パーティで出会ったイタリア人セルジオは、以前イランで働いてたことがあって、
「イランでは地元の人と仲良くならないと!家に呼ばれたりして、彼らの生活の内側に入った方がいい。観光してるだけじゃ、絶対にイランの良さは分からない!」
と、力強い助言をくれた。

確かにそうだ。観光しているだけじゃ、しんどい。
どこの国もそうだけど、とりわけイランは出会う人によって印象が変わると思う。

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ヤーラント村では、ラマダン期間中だけ、毎晩違う家庭が持ち回りで夕食を無料で提供する。食べる場所は男女別。

 

エスファハンでイラン初のCouchSurfing。
お世話になった年下の若い夫婦。
イラン・エスファハン出身のマジッドと、ロシア・タタルスタン出身のアナスタシア。
初めてこんなに敬虔なイスラム教徒に出会った。
穏やかで静かで優しい。おまけに容姿麗しい。
二人の姿を見ているだけで癒される。

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彼ら二人はとてもクラシック。伝統的、古典的なものが好き。
イランの若者はみんなこんななの?と聞くと、
「あんまりいないよ。なんでかな?生まれつき好きなんだよね」
と笑った。
部屋には手作りDIYした家具や、伝統的な小物がたくさん。

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DIYしたソファとテーブル。テーブルの中身は、ケシュ島で拾った思い出の砂と貝殻。
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エスファハン特産のペルシャ更紗のテーブルクロス。

イラン式アイスクリームの作り方を教えてもらったり、
二人が三ヶ月間、ヒッチハイクとキャンプでイラン中を旅した話を聞いたり、
他にも色んなことを教えてもらって、イランが好きになった。

「ハーフェスを知らないの?詩を知らなければ、イランを知らないも同然だよ!」
マジッドが情熱的に説明してくれる。
詩と言っても、神秘的で哲学的。人生、愛、神、人としてどうあるべきか、どう生きるべきかを謳っていると言う。
「コーランを持っていない家庭でも、ハーフェス詩集は置いてあるくらい人気なんだ」
何か心配事がある時や、先行きを占いたい時に、念じながらパッと開いて、そのページに書いてある言葉を助言として受け取るのだそう。
「詩から始まっているものが多いんだ。ペルシャ語は、ハーフェスの詩から生まれたんだ。彼がいなかったらペルシャ語はないだろうね。それにイラン音楽のほとんどは、古典の詩を歌っているんだ。ハーフェス、ルーミー、サーディー、ハイヤームとか…」
700年前くらいの言葉を現代も話しているということになる。日本でいったら鎌倉とか室町時代。古典の授業で習うような年月だ。
日本に帰ったら、ハーフェスかハイヤームをがぜん読んでみたくなった。

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イラン式アイスクリーム、バスタニを作るイケメン。

ラマダン。
ラマダンは、日中食べないという身体に悪い苦行だと思っていたけれど、
本当は、辛い試練への挑戦、戒律を特に厳しく守ることによる魂と身体の浄化を強化する月間、なのだそうだ。

二人は毎朝4時前に起床し、朝食をとる。そして夜8時15分のアザーンの後、夕食をとる。
健康であることが大事だから、油や肉(極力)、砂糖や添加物いっぱいの食事はしない。野菜中心のスープやおかず、豆やヨーグルト、フルーツやお茶。シャンプーや洗剤もオーガニックでケミカルじゃないものを選んでいる。
そして健康のために、毎日9,000歩を歩いている。

「イランできちんとラマダンをしている人は、15〜20%くらいかなー。みんな家の中で普通に食べてるよ」
衝撃的。
日本でも、浄化期間としてのラマダンを実践してみたいと思った。
厳密なラマダンではなく、デトックスとか心の浄化期間的な位置づけで。

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手作りジャムと。お父さんの菜園からの野菜やフルーツも。
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ロシアのジャガイモとチキンのスープ。

話は尽きず、毎日夜中まで話した。
「イランはね、すごく閉じているんだ。色んなものがコントロールされている。女性は特にね」

マジッドたちの家にテレビはない。
「イランの大半の人はテレビに毒されてる。僕たちはテレビの情報なんて信じてないから、置いてないんだ」
「イランの番組はすべて、イランは美しい、平和だって映して、海外はこんなに悲惨で危険だって報道してるのよ。ロシアとの関係が悪化すれば悪口を言って、仲良くなれば観光を促すの」
いまの日本のマスメディアと同じだね。

マジッドとアナスタシアは、宗教が共通点としてあるけれど、ロシアとイランでは違うものがたくさんある。自分の国の外に出たこと、文化風習の違う相手と結婚した経験は、多くの気づきがあったと話す。

「イラン人は嘘をよく吐くんだ。でもそれを自分自身で気づかない、客観的に自分を見たことないからね。父なんかよく、思いこみで〜をしてはいけない!って言うけれど、僕はそれが間違ってることを知ってる。世の中には多様な価値観や信念があって、だから父に縛られる必要はない。僕たちは、自由なんだ」

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遠距離恋愛の時期、詩や花びらをハガキで送ったそう。ロマンチックだ。違う文化圏だ。

イランは、政府によるインターネットの規制が厳しいことでも有名。Google、YouTubeやFacebookなどがブロックされてしまう。
「インターネットはVPNを使えば自由なんだけど…インターネット代自体が高くて、僕の給料だと1ヶ月に3GBが限度。動画なんて観れないよ。しかもVPNは政府から買わないといけないんだ」
政府がインターネットを規制して、その政府がVPNを販売してるってこと?それって情報規制っていうか…お金儲け目的?
「まぁ…そうだね」

 

イランの政府は、どう?良い?
「前大統領は最悪だった。核開発問題でアメリカとの関係は悪化するし経済制裁されるし。経済政策も失敗ばっかりで物価は上がる一方なのに、給料はなかなか上がらないし。しかも不正選挙で再選して、デモがあちこちで起こったよ。現大統領は…失敗はないけど、何もしてくれないな」
日本はいま最悪と思ってたけど、イランもなかなかだね。
イランでは兵役を終えないと、きちんとした仕事に就くことも、パスポートも免許も取れない。
「僕たちも早く兵役を終えて、世界中を旅したいよ」

 

政と暮らし


イランほど、「自由」という言葉を意識した国はないかもしれない。
言動や行動にも制限が多い。国外に出るだけでも一苦労。

石油、外交、宗教、教育、、
政治のインパクトが一つ一つ大きいし、揺れやすい。

アメリカと仲が悪くなれば経済制裁。
石油価格の調整に失敗すればガソリン高騰。
教育が無償になったり有償になったり。
すべて人々の暮らしに直結している。

それを人々は自覚しているし、不満がたまっている。
イスラム教というフィルターだけでは、分からない内情。

自分と同じ考えを持って、色んなことを話せる友人は、いる?と聞くと、
「もちろん。たくさんいるよ」
マジッドたちは穏やかに微笑んだ。

つつましく、誠実に暮らす二人。
将来のことを訊ねると、
「まだ分からないよ。まずは兵役が終わって、色んな国を旅してからかな。でもいつか、田舎に住んで、畑を持ったり自然の近くに暮らしたい。イランには良い素材が多いから、オーガニックショップも開きたいな」

イランの好きなところ、嫌なところ、すべてを受け入れている。
激昂もせず、悲嘆もせず。ただ目をそらさず、でも自分の考えを周りに押し付けず。
自分の出来ることから、たんたんと積み重ねること。

隣の人を大事に、祈り感謝をしながら、一日一日を生きる。logo sho-01

 

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モスクのタイルワーク。積み重ねられた年月と歴史を感じる。

 

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