楽園の島と、太陽と月の祭典
初めてのインドネシア。
空気に水分が多い。呼吸と一緒に色んな匂い。
潮の匂い、雨の匂い、森の匂い、田んぼの匂い。
海、山、雲、棚田。
輪郭が柔らかいのに、加工したみたいに色彩は鮮やか。
とろっと揺れる波。田んぼを歩む水牛。惜しむように暮れていく太陽。谷間の村にかかるいっときの虹。
バイクを借りて、村々を回る。
いつも空を見て、風の動きを見て、雨雲を確認する。
さっと冷たい風が足元からやってきたら、激しいスコール。
軒先か飯屋に駆け込んで、しばし雨宿り。
小一時間ほど。生暖かい風が吹いて、太陽が出る。
土砂降り級は、だいたい昼すぎ、夕方、夜の三回。
リズムに慣れるまで少しかかる。
今までと違うテンポで物事が進む。
乗り合いバスに乗って、人が集まるまで出発を待つ。
やっと出発したかと思えば、いろは坂のような山道を登っては降っての繰り返し。
土砂崩れ、お昼休憩。一向に目的地に近づかない。
時間の流れが、ゆっくりになった。
フローレス島、バリ島、スラウェシ島、ジャワ島。
島ごとに性格や雰囲気が変わる。
やっぱり島国は面白い。
食のハイライト
久しぶりの美味しいアジアご飯。
インドネアシアは屋台天国。
ご飯もの、麺もの、揚げ物、サラダ。何だって手に入る。
おやつも例外じゃない。
インドネシアのおやつは、バナナフライ、パンケーキ、タピオカ、チンチャウ、揚げ砂糖…と挙げきれないほど種類が豊富。
お気に入りの屋台を見つけて、通うのが楽しい。
食堂も安くてボリュームたっぷり。
インドと違って、野菜をたくさん摂れるのが嬉しい。
皆既日食
インドネシア・スラウェシ島。
旅を始めるずっと前から、計画していたうちの一つ。
皆既日食を二人で見ること。
朝7時半から少しずつ欠け始めた太陽。日差しは強く暑い。
昨日まで空を覆っていた雲は、奇跡的に消えていた。
この日、日食を目撃するために、世界中からたくさんの人が押し寄せていた。
皆既日食に合わせて開催されたパーティー。どこで観るか迷ったあげく、見晴らしの良いメインステージへ。数百人もがみんな同じ方向を、つまり太陽の方向を見つめている。
午前8時半ごろ、太陽の光が弱くなり徐々にあたりは暗くなってきた。すでに空気は涼しい。
会場のテンションが、どんどん上がっていく。
一晩中踊っていたゾンビたち、日食メガネをのぞく人、太陽に向かって踊る人、抱き合う人、精神統一する人。
太陽・月・地球が一直線に並ぶその瞬間を、息を飲んで待ち望む。
いつのまにか音楽は消え、雄叫びやざわめきが止み、静寂が訪れた。
次の瞬間、あたりは真っ暗になり、ダイヤモンド・リングが浮かびあがり、目の前に大きな黒い太陽が現れた。鳥たちが異常を察し、騒ぐ。
ただただ、すごかった。興奮は最高潮に達し、みんなの感動が伝導してきて心地よい。
けっして直視できなかった太陽を、初めて肉眼で見つめる。
夢のような2分間が過ぎ、徐々に太陽の光が顔を出す。
もう肉眼で見ることはできない。