星の旅人たち

歩き始めて約二週間。
毎日平均25kmを積み重ね、およそ300km以上歩いたことになる。
特にまだ、なんの達成感もわく訳でもなく、Christianityに感動した訳でもなく、
ただ毎日歩いている。

月とオリオン座が煌々とする夜明け前、まだ眠っている町を抜け出す。
暗闇の中、石畳を照らすオレンジ色の街灯のを頼りに、
道順を示す黄色い矢印と帆立貝のマークを探し出す。
かじかむ手を引っ込め、白い息を吐きながら歩いて行くと、
地平線の端から、桃色、橙色、群青色のグラデーションが刻一刻と広がっていく。
鮮明に浮かび上がってくる景色、葡萄畑や麦畑、遠く連なる山々。
背後からゆっくり昇ってくる太陽で、空気がゆるみ始める。

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たった二日目に、感染症による高熱と嘔吐。
吐いたのがいけなかったのか、それから胃を壊してしまい、胃痙攣のくり返し。
日程が毎日遅れていき、無事に終えれるのか不安になる。
足は…靴が合わないのか、左足の小指が潰れ、風船のように腫れあがり、
人差し指と親指のつけ根が、つき指したように痛む。
最後までもつのかなぁ。

昔の人はみんな歩いて旅したんだなぁ、当たり前のことに気づく。
よく時代劇で、旅に出る場面では、旅支度して足袋や草鞋をつけて、
何日もかけて、自分の足で野山を越えて、宿場町で宿をとって。
長い長い時間をかけて、痛む足と一緒に移動したんだろうな。
それに比べて、今はずいぶん手軽になった。
ほとんどの巡礼宿でWi-Fiが飛んでるし、次の宿まで荷物を運んでくれるサービスまである。

もちろん、キリスト教の信仰に触れる機会もあった。
GrañonとTosantosという町の巡礼宿では、
食事と寝床が無料で与えられ、すべて寄付でまかなわれていた。
その日、泊まった巡礼者たちと宿のホストは、ともに食事とミサをした。
昔の巡礼者たちが歌った古い歌を歌ってくれたり、
真っ暗な教会に座って、蠟燭を灯して瞑想したり。
聖書やスーパーマンみたいなイエスに共感したことはないけれど、
信じたことを自分の言葉で話し、生活に取り入れ、分かち合おうとする人は、
どんな宗教を信じていても、素敵だと思う。
巡礼を歩く動機は、昔と比べてカジュアルになってきている。
歩くのが好きな人、好奇心、自分を鍛えたい人、自分探しに来る人、人生の転機を求めて、考える時間が欲しい人、いろいろ。
熱心なクリスチャンにはほとんど会わない。
わざわざ巡礼の道じゃなくても、別に方法はあるのに、なんで巡礼なんだろう。

サンティアゴ巡礼をしたかった理由はいくつもあった気がするのに、
今になって、ほとんど思い出せない。
なんで歩きたかったんだろう、と今さら考えている。

歩いてみたいって思ったきっかけ、一つだけ思い出せる理由は、
あるアメリカ映画の影響。『星の旅人たち』(原題::“The Way”)
相容れない親子のお話。
休日は仲間とゴルフ、いわゆる人生の“成功”街道を走ってきた典型的な父親トムと、
定職につかず、お金を貯めては「まだ見たいもの知りたいものがいっぱいあるんだ」と、
世界を旅して飛び回る息子ダニエル。
ある日、トムはフランスから一本の電話を受け取る。
それは、サンティアゴ巡礼の一日目にピレネー山脈で、息子が事故で亡くなったという報せ。
トムはダニエルの遺体を引き取りにフランスへ駆けつけた後、
ダニエルの遺したバックパックを背負い、火葬した遺骨を撒きながら巡礼することを決意する。
トムは道中、いろんな巡礼者と関わり合いながら、黙々と歩きながら、理解し合えなかった息子のことを考える。

映画の冒頭で、こんな会話が交わされる。(ちゃんと台詞を覚えてないけど、概ねこんな感じ)
父親「I did choose this life. (私はこの人生を選んだんだ)」
息子「No, we can’t choose a life. Just live one. (違う、人生は選ぶんじゃない。ただ生きるだけだよ)」
仕事を辞めるか悩んでいたとき、このワンシーンが響いたのを覚えている。

いまは、なぜ歩いてるのかも、目的もないけれど。
いろんな国から来て、いろんな理由で歩いている巡礼者たち、
道で会って、宿で話して、また考えて、
歩ききった時、その答えは見つかるのかな。

夜になると、巡礼宿はイビキの大合唱。
イビキをやめるまで、一つずつポップコーンでも詰めてやろうかと思うくらい、寝れない。
飛行機のプロペラみたいな音から、風船から空気が抜けるような音まで。
何度もトイレに起きだすご老人たち、寝静まった中で「いま何時?」と大声で話し出すアメリカ人。キッチンをひたすら汚し自分の話しかしないイタリア人、みんなの汚した共用キッチンを掃除するイギリス婦人。
巡礼宿は今日も、多種多様です。 shologo sho-01

 

↓映画「星の旅人たち」の予告編

 

2 thoughts on “星の旅人たち

  • 2015-10-25 at 6:07 PM
    Permalink

    こんにちは。
    いつか今田史朗さんの家で話をした清水です。
    facebookはいつも楽しみに読ませてもらっています。
    体調と足は大丈夫?早く良くなりますように。旅を楽しんで下さいね。
    広島から元気に楽しめるよう祈っていますね。

    Reply
    • 2015-12-20 at 5:47 AM
      Permalink

      返信遅れてしまい、申し訳ありません。
      お陰さまで、無事に歩き終えることが出来ました。

      投稿にいつも反応して頂いて、私たちの励みとなっています。
      特にこんな風に、ブログの方にコメントを頂くと違う嬉しさがあります。

      次にお会いした時は、清水さんのお話もゆっくり聞かせてください。
      よろしくお願いします!

      Reply

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