愛と憂いのシノップ|[後編] Think of No One as “Them”

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電力会社のエンジニア


おばちゃんの店から徒歩5分、町の中心部にある県庁の建物の一画に、トルコ国有電力会社(EUAS)のオフィスがある。

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国有電力会社  シノップ原子力発電所調整局(センター)

僕たちの突然の訪問に対して、職員の人たちの反応は良かった。
話を聞きたい旨を伝えると、エンジニアのF氏が応対してくれた。

フランクで人の良さそうなF氏。会話は、彼が日本の田舎に興味があって、いつか行ってみたいんだ。という話題から始まった。

話が進むと原子炉の説明に熱が入ってくる。

フクシマのモデルとは違い、安全だということ。
地球温暖化を防止するためにも原発は有益だということ。
天候にも季節にも影響されないから、供給が安定しているということ。
エネルギー効率が、火力水力など他に比べ良いということ。

どこかで聞いたことのある内容だった。

「フクシマやチェルノブイリから学び、安全なものを建てる。私たちは過去のアクシデントから学び、進歩していかなければならない。」

エンジニアらしい発言。

ー住民がどう思っているか知っていますか?

「原発は危険だという人は、原発のことを理解していないんだ。車に乗ることだって、事故の危険があるだろう?だからといって車を使わずにはいられない。車に乗るくせに原発はだめだなんて、おかしいだろう?」

ー・・・。

その後もいくつか質問をしたけれど、掘り下げた意見は聞けぬまま、時間は過ぎてしまった。

モスクの青年


県庁訪問から遡って1時間前、僕たちはなんとなく時間を過ごす為、モスク(ジャーミー)に居た。

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町のモスク。開かれていて静かで居心地が良い。本来はお祈りをする場所だけれど、座って話したり、昼寝をしたり、それぞれに過ごす。

僕たちを見て、一人の青年が話しかけてきた。
熱心なムスリムの彼は、珍しい僕たちを見て、宗教について話したいと申し出てきた。イスラムの考えを知りたかったし、時間もあったので、申し出を受けた。

ところが、どうやら彼の目的は、僕たちを改宗させることらしい。話の節々に「どうだい?神(アッラー)を心に感じるだろう?」と確かめてくる。
彼自身が素晴らしいと思うから勧めているのはわかるのだけれど、押しの強いやり方に、戸惑った。

モスクで話している僕たちを見て、一人の女性が尋ねた。
「何をしているの?」

「この中国人の二人にムスリムの教えを説明してるんだよ。」

祥の表情がムッとした。さっき日本人だと言ったし、自分たちの宗教観も話した。
彼にとって僕たちは、布教をする対象であって、僕たち自身のことには興味がない様子。

モスクの彼に祥が言い放った。
「あなたのやり方は好きじゃない。私たちはあなた達の宗教をリスペクトしているし、知りたい。あなたがイスラムの教えに誇りを持っているのも素晴らしいと思う。でも私たちにも大切にしている世界観がある。違う考えを正そうとする前に、まず知ってほしい。聖書の言葉じゃなくて、あなたの考えを、あなたの言葉で聞きたい。」

祥の歯に衣着せぬ言い方に、相手がどう反応するかハラハラしたけれど、この言葉のおかげで話は落ち着いた。

Think of no one as “Them”


エンジニアのF氏に同じことを言えなかったのは、タイミングでなかったというのもあるけれど、彼の表情に微かに後ろめたさを感じたから。
立場上の彼の意見の背後に、もしかして本音があるんじゃないかと感じた。組織としての言葉じゃなくて、彼の考えを、彼の言葉で聞けることを期待した。

喫茶店のおばちゃんにスーツを脱ぎネクタイを外したF氏にチャイとお菓子でも振る舞いながら話し合ってみてほしいと思った。

魚屋のお兄さんや喫茶店のおばちゃんからしたら、
行政や原発関連会社の人たちは”彼ら”

反対に、エンジニアのF氏からしたら、市民は”彼ら”

例え違う立場の相手でも、彼らじゃなくて、その個人を知ること。
説得するとか、言いくるめるとか、最初からその姿勢で行くんじゃなくて、まず、相手の意見を聞く姿勢が取れたらいいなぁ。

立場は2極に分けられるものじゃないものね。DSC_0440

愛すべきシノップ。
憂いのない町の風景が、早く来るといい。logotatsuya-01

 

気分はこの曲
♪caravan / アイトウレイ

「親愛なる世界を乗せ 迷走する青い惑星

響け愛と憂いのブルース

他のどこかじゃない君の真ん中に・・」

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