ケチから学ぶこと vol.2|次々と生まれる不信感【ドイツWWOOF日記】

→ケチから学ぶことvol.1

ベンは、アスペルガー症候群の特徴によく当てはまり、コミュニケーションで苦労した。
本人に自覚はないし、ヨアンナも気づいてないみたいだけど。

たとえば、バジルの摘み取り方ひとつとっても、すごいこだわりがあった。
上から何番目の茎から切るとか、どの位置の芽を残すとか。
(ラウロなんて、がばっと掴んで、ジャキッと切ってたのに…)

 

「婉曲な表現はやめて、もっと具体的に話した方が良いのかも」
「失礼なことを言われても、本人に悪気がないはずだから、気にするのは止めよう」
などなど、達哉と二人で、夜な夜な話し合ったりした。

 

しかし、私たちも仙人ではないので、我慢の限界が訪れる。

 

 

家の周り草刈りをやった時が、一番大変だった。

その日は、日差しが強く、暑い午後だった。
ベンが電動ノコギリで、あちこち歩き回り、枝打ちや草を刈り散らして行き、
それらを私たちが回収し、トラクターの荷台に積む。

ベンは無計画に歩き回り、回収し終わった場所でもまた枝を落とす。
トラクターの荷台は高く、長くて2~3mの枝や樹を載せるのは重く、骨が折れる。

草の中には、ブラックベリーなど棘の多い草は、ジーンズや軍手を突き抜けて、痛い。

ベンは、あちこち刈った後、

「じゃ!後よろしく」と、またオフィスに引っこんでしまった。
残された私たちは、あちこちに撒き散らされた枝を見て、呆然。

さらに、一時間後くらいに、まだ枝を運んでいる汗だくの私たちのところへ来て、
「ブタの餌やり、よろしく」と言い残し、車で出かけて行った。

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この日は、荷台に盛り盛り2杯。次の日に、もう1杯積み込んだ。

 

母屋のブタ小屋の掃除も、また辛かった。
1ヶ月くらい掃除していないのか、寝藁が糞尿で踏み固められ、すでに厚さ5~6cmの層と化していた。
鋤やシャベルで、粘土のような固いウンコ層を崩し、一輪車に詰み、コンポストへ捨てに行く重労働。
掘り起こす度に、すごい異臭が鼻をつく。

こんな所に閉じ込められているブタたちが、気の毒になった。

 

ある日は、「リンゴをあるたけの木箱やバケツで拾って来て」と言われ、
3時間くらいかけて、木箱9箱、大バケツ4杯のリンゴを拾った。

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あとちょっとで終わる!と、希望の光が見えた瞬間。(朝のエサやりで空になった)新しい箱を、黙って置いていくヨアンナ。「この箱もお願い」とか一言あってもいいよね?

 

ベンとヨアンナが私たちと一緒に作業することは、ついぞなかった。
毎日、私たちに作業指示を与え、自分はヨガの仕事があるからとオフィスへ閉じこもる。

そして、こんな重労働が続くのに、シャワーを浴びれない日がある。
人間の心地がしない。

 

「作業の調子はどうだい?」と聞かれ、
「本当に重労働。生き物を飼うって大変なことなんですね」と返事すると、
「そうかな?何が大変なの?」と返すベン。

同情すらしてもらえないし、何が大変なのとも聞かれない。
相手の気持ちを想像したり、言外の意味を汲み取るのが本当に苦手なようだった。

 

辛い作業は、ぜんぶ私たちだった。
自分たちは重労働はやらず、WWOOFerにさせている。
本人たちに、その自覚がないのが、一番の問題だった。

 

ベンとヨアンナは似た者カップル


ヨアンナは家事が苦手。ベンはヨガの仕事で忙しい。
家事が滞っていても、とばっちりが来るのは、私たちだった。

ヨアンナは妊娠5ヶ月で作業が出来ないと主張し、一日中どこかへ電話をしているか、大好きな馬の世話をしている。家の仕事は、放ったらかし、やりたいことだけをやる。
彼女はとてもワガママで高校生の少女のよう。ベンは正面からぶつかることを避けているのか、それに逆らえない。

 

二人が使ったあとのキッチンは、食べた後の食器や食べかすが散らかっている。
私たちはそれを見る度に、食洗機に入れたり、乾いた食器を棚に戻していた。

 

汚れものが洗濯室に山のように溜まっている。
洗濯機を回しても、干されずカゴの中に放置されている。

ある日、昨日からずっと放置されている洗濯カゴを見て、
「そこの洗濯物、干しといてくれる!?」
仕事に追われているベンは、イライラしながら私に頼んだ。
カゴを見ると、すべてベンとヨアンナの下着類やシャツだった。
私は家政婦じゃないし、プロフィールの仕事内容にも家事はなかったけどな。

 

今度は、私たちが洗濯機を使わせてくれるように頼むと、
「機械はフィンランド語でわからないだろうから、僕が回しておくよ」
と言われた。(操作なんて、大して難しくないはずだけど…)

終わった洗濯機を開けると、なぜか洗濯ドラムはぎゅうぎゅう。
私たちの洗濯物以外に、ベンの作業ズボンが三本も入っていた。
…一言あってもいいんじゃないかな?

 

唯一、コミュニケーションが取れるのは、食事時。
こちらが色々質問しても、すぐ会話が終わってしまい、
私たちに興味がないからか、こちらに質問はされない。
中国と韓国と日本の区別がつかないらしく、混同して話される。

 

食事の後、「シエスタは何時間くらい欲しいか」と聞かれ、
早く作業を終わらせ自由時間が欲しかった私たちは、
「シエスタは要らないから、早く始めたい」と答えると、
「これだからアジア人は、ワーカホリックだね」と、鼻で笑う。

 

ほとんど二人でドイツ語で話し、たまに私たちに英語で質問する。
「何か武道はやっているか?」とか「このファームのロゴを作ってほしい」とか。
前後の会話がわからず、文脈がつかめないから、相手の求める答えがわからない。
うまく返せずにいると、またすぐドイツ語の会話に戻ってしまう。

 

何より一番辛かったのは、食事。
オーガニックファームでは、仕事がいくら辛くても美味しいご飯に救われる。
でも不幸なことに、ここの菜園の野菜はスーパーと変わらない薄い味。

そのうえ、ヨアンナは料理が下手。
いつも薄味の素材勝負!みたいな料理をするのだが、
いかんせん野菜の味も水っぽいから、勝負にならない。
(だって、雑草や生ゴミを有機肥料にしているだけだからね)

ヨアンナはいつも何にでもケチャップをつける。
たしかにオーガニックのケチャップだけど、味音痴なの?と言いたくなる。

 

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マンドラゴラ?って人参。野菜って育ててる人の人間性が出るよね。

 

食事は基本、畑で育ちすぎたインゲン豆かズッキーニ。
私たちが出かけるタイミングを狙って、肉を出してきては二人で食べている。
ご相伴に預かることはなかった。

 

 

ベンとヨアンナは、オーガニックで質の高い食材を、業務用通販でまとめて購入している。
たとえば、穀物、ナッツ、パスタや調味料などなど。
それをすべて貯蔵室にしまい、二人以外を立ち入り禁止にしている。

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冷蔵庫の中身は食べていいのかグレイゾーン。冷蔵庫の右上には、チョコレートやスプレッドなど。
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オランダの特別なピーナツバターだとか、いちいち特別感が漂う。

何度か、二人がランチの時間になっても帰ってこないことがあって、
自分たちでご飯を作らないといけないのに、台所にはパスタも米も何もなかった。

 

育ちすぎたズッキーニとインゲン豆、ここの鶏の卵が廊下に置いてあるだけ。
仕方なく、ヨアンナの作った味の薄いインゲン豆スープをリメイクしたり、目玉焼きを作った。
(そのうち、卵も隠されたけどね。常に10個以上ストックあったのに…私たちは残飯処理班?)

 

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四畳くらいの秘密の貯蔵室。
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覗いてみると、パスタや穀物、調味料などがぎっしり。1年分?

常識って、国や人によって違うとは思うけど、
二人の常識と、私たちの常識があまりにもかけ離れていた。
二人の間には二人の世界が出来上がっていて、その世界では私たちが異端だった。

 

労働が辛い、ご飯が不味い、人が残念。
この三拍子が揃った今、私たちがここにいるメリットは何もなかった。

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