バイオダイナミック農法 vol.2|理想と現実のはざまで踏ん張る人【ドイツWWOOF日記】
ファームでの一日
ファームでは、大勢の人が働いていた。
ウーリーとアレックス、その家族。20年間ずっとこのファームで働いているベテラン女性。
住込み研修生や、高校生の短期研修生、近隣の中学生の職場体験実習。
私たちと同じWWOOFer (WWOOFボランティア) 。併設カフェの従業員。
さらに、毎週500人ほどの顧客に野菜やオーガニック製品を配達しているので、配達担当のソーシャルワーカーたちが、週に数日出勤してくる。
そして、クルディスタンからの難民。社会貢献活動ボランティア。
曜日ごとにメンバーが入れ替わり立ち替わりするので、名前が覚えられない。
一日の仕事は、毎朝9時の全体ミーティングから始まる。
私たちWWOOFerは、主に野菜畑のお手伝い。
温室の草取り、水やり。トマトの収穫、選別。
あとは時期が終わったメロンを取り除いて、堆肥を鋤きこんで、アンディーブの植え付け。
外の広大なジャガイモ畑では、ひたすら収穫と、選別。
あとは林檎の選別と、箱詰めなど。
ランチは1時くらいから。
大体はアレックスの奥さんか、カフェのスタッフが作ってくれる。
食材は、ファームの野菜はもちろん、配達用のオーガニック食材も使える。賞味期限が近かったり、傷ものになったものが中心だったけど。
たまに、私たちが担当することも。20人分って難しい。レンズ豆のインドカレー、ファラーフェルなど。
大豆ミートの唐揚げが一番好評だった。
午後はまた2時からミーティングをして、仕事を確認。
夕方は5時か6時くらいに終わり。イレギュラーが入らなければ、一日6~7時間労働。
夕飯は各自自由。作ったり、軽く済ませたり。
私たちにとって、夕飯が一番の楽しみ。仕事終わりに、食材をかき集めて、贅沢ご飯。
ファームで扱っていたBioladen社のスパゲッティが美味しすぎて、ほぼ毎日パスタ。
幸せすぎる。
週末土日は、きっちりお休み。
みんなは、エッセンなどの街へ出かけて、美味しいアイスを食べに行ったり、ライブに行ったりしてたけど。
私たちはファームマップ片手に、近隣のファーム巡りをしたり、お散歩したり。
ある休日はウーリーの誕生日祝い。
ウーリー自ら火熾しして、自家製ソーセージのBBQ。
ビールまでご馳走してもらった。
今まで市販のソーセージしか食べたことなく、ドイツソーセージ大したことないじゃん、と思ってたけど、
炭火の香ばしさと、噛むと溢れ出る肉汁。沁みる美味しさだった。
「ウーリー!私たちの夢を叶えてくれて、ありがとう!ドイツでソーセージを食べて、ビールを飲むのが夢だったんだ!」
ウーリーは、ただ恥ずかしそうに笑っていた。
基本的に、ウーリーもアレックスも家族がいて小さな子どもがいて、
農場の経営や、従業員の指示に明け暮れていて、忙しい。
会話をする機会があまりなかったのが、少し心残りだったけど…
私たち自身も、毎日の作業に追われ、あっという間に半月が過ぎてしまった。
Demeter認証とバイオダイナミック
ウーリーのファームの、Demeter認証のトマト。
正直、ラウロのファームのトマトのような舌に沁みるような感動の味とは言えなかった。
ラウロの畑と違って、雑草は一切なく、温室栽培。
地面を這わず、コンパニオンプランツもない。糸で真っ直ぐ立つように吊るされている。
葉っぱがほとんど繁らず、大粒の実が重たげにたわわになっている。
これって、自然の姿とはかけ離れてない?
天敵である、白い小さな羽虫や黒いカビの発生も多い。
毎日見回って、腐り始めていたり、傷がついたトマトをコンポストへ捨てる。
もったいないから、追熟させて自分たちで食べてたけど。
世話をしながら、なんだか可哀相になってくる。
まるで、縛り吊るされ、雇い主の都合よく働く人間に見えてきてしまう。
味も、ラウロのファームで食べたような、衝撃は得られない。
スーパーで売っている水っぽいトマトとは比べものにならないくらい濃いけれど、
いま一つセンセーショナルさには欠ける。
やっぱり、スペインの乾燥した大地と強い太陽が必要なんだろうか。
それとも栽培法が、何か合わないのだろうか。
そしてジャガイモ。
終わりが見えないくらい広大な畑。
畝の全長は1kmはないにしても、果てしなく感じる。
軍手を使って掘り出すけれど、大きくても卵大くらいしか出てこない。
もっと大粒が取れれば、やり甲斐もあるのだけれど。。
Demeter研修生のミヒャエル(32)と、世間話をしながらのんびり作業。
「こんなにジャガイモ小さいけど、これが普通なの?」と私。
「いや、雑草も取らず放っておいたから小さいんだよ。今年は忙しくて手が回らなかったからね」
「月の満ち欠けとか、バイオダイナミックのカレンダーを見かけないけど、どうしてるの?」
「う〜ん、ここは忙しすぎてそこまでやってないかもね。堆肥についてはベテランがいるからきちんとやってると思うよ」
え!?それってDemeter名乗っていいの!?
「研修は大変?」
「二年間、ほぼ無収入だからね…でも夢があるから、勉強も農作業も楽しいよ。いつか、牛中心の農業から脱却するんだ」
そしてミヒャエルは、畑の真ん中で足を投げ出し、昼寝をしだした。
夢と現実
本当のオーガニックとは何か。本当の食べ物とは何なのか。
考え出すと、だんだん分からなくなってくる。
ウーリーとアレックスは、お金儲けのためにやっているのではない。
二人とも、大のつくお人好し。そして優しい。
儲けにならない面倒な頼まれ事も、断れない。
その結果、ファームの経営が苦しくなってくる。
本分である農業に、手が回らなくなってくる。
ファームを経営し、お金を回すことと、
本物の食べ物を広め、志ある農業を続ける、純粋な気持ち。
その二つを両立することは、本当に難しいことなのだ。
ある日の会話で、ウーリーに尋ねたことがある。
「なんで、自家製ソーセージにはDemeter認証が付いてないの?」
「近くの人に届けるなら認証なんて要らないからね。みんな僕のことを知っているし、直接育ててる現場を見に来れるでしょ?…でも、ミルクとか野菜とかを遠くの人にまで届けようとすると、認証は必要なんだ。お金も手間もかかっちゃうけど、信用を得るためにね」
生産者の気持ちとして、認証があってもなくてもオーガニックであることは変わらないのに。
認証にかかる費用や時間がなければ、もっと手頃な価格で売れるのに、っていう気持ち。
でも消費者として、自分の土地では手に入らないオーガニック製品が欲しいこともある。
そんな時は、どうしても認証の情報に頼ってしまう気持ち。
認証と、本物の食べ物であることは、必ずしも同義ではないようだ。
→vol.3に続く(coming soon)
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