600マイル

アメリカ大陸西海岸を南に600マイル。
ポートランドからサンフランシスコまでライドシェア(相乗りドライブ)で12時間の旅。

ドライバーはスペイン人のビクター。助手席のサンシャインはヒッピー風な女性。

出発の朝、車をバックさせるやいなや、

「ガン!」

後部を岩に激突させるビクター。

「おっとっと、大丈夫。大丈夫。」

傷の確認もせずに出発進行。不安な出だし。

ハイウェイを猛烈なスピードで飛ばしつつ、絶え間ないサンシャインの話に相づちを打つビクター。相手の顔を見て話を聞くのはいいけど、運転中は前を向いていてほしい。

様々に巡って次の話題は彼女の恋バナ。

彼氏について語っている。
変だな。さっきは旦那と息子が居ると言っていた。話を聞いていると、どうやら彼女はpolyamory(一妻多夫制)のコミュニティに属しているらしい。性的な魅力を感じたら誰とでも関係を持つ。お互いにそれは合意しているし、コミュニティの中で生まれた子供はみんなの子供として育てられる。

初めて出会った。そんな価値観もあるんだ。
いろいろな考えを巡らせた。

終始僕たちの常識を打ち壊す話を提供してくれたサンシャインと途中の街で別れ、再び出発。あと250マイル。予定よりだいぶ遅れている。

ハイウェイを走っていると、ビクターの携帯のバッテリーが切れる。ナビが見れなくなってしまうので公衆便所のコンセントで充電することに。

「15分チャージしたら行こう。」

ついでに休憩も兼ねてビクターが持ってきたチャーハンを3人で食べる。
充電中の携帯から離れられないので、男子便所の前で。
ちょうど良い高さのゴミ箱をテーブル代わりに。
箸もスプーンも無かったので、指で。

「なんてロマンチック!」とビクター。

「ははははっ。」

3人でハグをした。
サンフランシスコに到着した頃にはもう夜中。
今夜の寝床を貸してもらう予定のビクターの友人の家へ。
と思ったら、またバッテリーが切れ、連絡が取れないので、充電できる場所を探して夜の街を彷徨う。

大学の学生寮の外壁にコンセントを発見。これで充電ができる。
月曜の夜なのにちらほらバー帰りの学生達が歩いている。
ビクター、構わずチャージング。

どうにか友人に電話が繋がり、彼のもとへ向かう。
疲れて眠そうな顔で出てきた友人。今夜はパーティーがあって、その主催をしていたみたい。
寝床を貸してもらう場所は、その、パーティーの会場の建物。くたびれた学生寮のような感じ。ただっ広いリビングといくつかの個室。ついさっきまで人が楽しんでいた気配。ハッパの匂いが漂っている。リビングでは余韻に浸るように、大きな壁のスクリーンで映画を見ている二人の青年。

部屋に案内してもらい、一服してすぐ、泥のように眠った。

翌朝、ビクターと別れ、ダウンタウンへ。
その日お世話になる友達は夕方まで仕事の為、街中で過ごすことに。
ダウンタウンを歩く。飛び交う車、散乱しているごみ、鼻を刺す匂い、路上で寝ている人。スーツ姿で急ぎ足の人も、汚れた服で千鳥足の人も。
荷物を全部持っている事もあり、少し気を張って歩く。

情報を得ようと、図書館へ向かう。
入り口で、出てきたおじさんに突然声を掛けられる。

「これからフリーミールだから行こう。」

聞くと、近くで慈善団体の炊出しがあるそう。

「誰でもフリーだから!」

ご飯は食べたばかりだったけれど、行ってみることに。

おじさんの名前はキース。
そこに着くとホームレスの人達の行列ができていた。キースにならって、行列の最後尾につく。
前の人と挨拶を交わすキース。笑顔。

並んでいる間、キースの話を聞いた。
20年以上一つの企業でサラリーマンを続けた彼は、今、この街の路上で暮らしている。
「死んだら何も残らないんだからさ。幸せでいること。人に親切でいること。」
ありがちな言葉だけど、彼の口から聞くと、説得力があった。
また、考えを巡らせた。

周りの人たちの紹介もしてくれた。

「あいつはグアテマラから来たんだ。けど日本人の血も混ざってる。目がアジアっぽいだろ?」

「あの黒いごみ袋を持ってる奴は一番のひょうきん者。いつも楽しそうだろ?この前スーツケースをプレゼントしようとしたんだけど、受け取らなかった。ゴミ袋の方が実用的だとさ。」

端から見て、勝手に近寄りがたいと思っていた「人たち」の、「個人」のストーリーが少しだけでも見えたことが、嬉しかった。

肩の力が抜けた。旅の面白さ。久しぶりの感覚。

500miles away from home
600マイルの移動、頭の中で流れてた曲。タイトルは500マイルだけど。
logotatsuya-01

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