ラジャスタンのクラフト|祖父から父へ、父から息子へ
インドの砂漠地方・ラジャスタン。
パキスタン国境にほど近いジャイサルメールは、またの名をGolden Cityと呼ばれる。
日の沈む時間には、アザーン(ムスリムのお祈りの放送)が響き渡り、町が黄金色に染まる。
うーん、黄金色とまではいかないか。
大好きだったのは、城壁の外の旧市街、入り組んだスージ小を散歩すること。
チャイ屋、金物屋、粉屋、菓子屋、時計屋…
古い建物の中、マッチ箱のような小さな店舗にぎゅうぎゅうひしめき合っている。
砂漠の民とラクダ
ジャイサルメールでよく見かけるのが革製品。
代々続く職人たちが、ラクダ革から靴やカバン、財布などを作っている。
お店に入ると、サンダルから刺繍入りまで、さまざまな種類や色の靴が、棚に所狭しと並んでいる。
値段は、仕様によって違うが、高くない。500円から高いものでも1200円ほど。
町のあちこちで革製品を売っているが、ほとんどが土産物屋。
革職人が直接販売しているお店は少ない。
土産物屋は呼び込みがしつこいし、あらかじめ値段をぼっているから、すぐ値引きしてくる。
革細工屋さんは家族経営が多い。
ラジャスタン地方はカースト制度が色濃く残っていて、代々同じ職業に就くからだ。
旧市街で見つけた一軒のお店も、親子で革職人。
「僕のお店は、ジャイサルメールで一番の老舗なんだよ」
(インドはそういう“自称”が多いから、なんとも言えないけれど、、)
店主のタルン氏(25)は、父ビジェイ氏から最近継いだばかり。
大きなお腹を揺すりながら、商品を説明したり、形の微調整をしてくれる。
「値段は定価だから、ディスカウントはしないよ〜」
「ドイツからの注文もあるんだよ、見る?」
と、のほほんとしている。
靴底は厚革が重ねられ、太糸のステッチで丈夫に縫い合わされている。
履けば履くほど、持ち主の足の形にフィットしていくと言う。
「5年は持つよ!保証する!」と胸をはるタルン氏。
信用第一の真っ当な仕事をしている職人さんなんだと感じた。
形を調整してもらい、時間をかけて一足ずつ選ぶ。
真っ赤なターバンを巻いたお爺ちゃんが履いているような革靴。
こんなのが欲しかった!
ラクダ革の靴は、砂漠の民族にとって、馴染みが深い。
人を乗せたり、荷車を引いたり、乳を恵むラクダ。
砂漠の民の生活を支えてきた彼らの歴史を想い、
一足ずつ、手で造る職人さんを想いながら、
大事に履こうと思う。
Vijay Leather Works | natural handmade leather bags
バグループリント
インドの伝統染色技法、ブロックプリント(木版染)。
手の平より大きな木片に、模様を彫った版。
スタンプのようにインクを付け、木綿地を連続模様で埋め尽くしていく。
慣れた手つきで、小気味いいリズムを刻む職人さん。
数十メートルにも及ぶ布は、あっという間に花や幾何学模様でいっぱいになっていく。
ラジャスタン地方はブロックプリントの産出地。
特に、首都ジャイプルの郊外にあるバグルー村は、ベジタブルプリントで有名。
野菜で染めている訳ではなく、草木染めという意味なので、面白い。
2012年、雑誌ku:nel(クウネル)の「インドの人は布上手」という記事で、
バグルー村の工房が紹介されていたのを見て、かねてから訪れたいと思っていた。
残念ながら、紹介されているスーラジさんの工房は発見出来なかったけど、
天然染料で染めている別の工房を見つけた。
村をさまよい歩き、藍の香りに惹かれて入ってみた工房。
当主ラム氏は8代目。まだ25歳と若く、最近父から稼業を継いだばかり。
作業工程を見たいと申し出ると、手際よく案内してくれた。
インクの染料は、植物由来。赤、青、黄、茶、黒を基本に、様々な色を生み出す。
青はもちろんインド藍。黒はなんと、黒糖と鉄分を発酵させて作るのだそう。
ここではダブという技法を説明してもらった。。
一旦木版でプリントした布の、模様の上からその模様の形をした泥スタンプを押し、模様が染まらないようにする。
そして、泥が乾いた後に模様以外の地色を染める。布単価は少し高くなるが、手が込んでいて心が躍る。
きっちりした日本の更紗と違って、かすれたり、滲んだり、柄がずれていたり。
インドの手仕事らしい、人間らしさ、温かさが溢れている。
「バグルー村だけでも200以上も工房があって、競争が激しいんだ。ほとんどが家族でやってる小さな工房だけどね」
「昔どおり天然染料だけで染めたいけど、それじゃ生き残れないからね。大企業からの注文では化学染料で染めることもあるよ。彼らは、どんな染料で染めてあるか、それがどんな意味があるかは興味ないんだ。その指定の色であることが大事だからね…」
天然染料を嬉々として説明してくれたラム氏。
現状を淡々と語るラム氏。
伝統継承と経済社会、その狭間での葛藤。
なんて答えれば良かったんだろうか。
奇しくも、伝統稼業を継いだ25歳の若者たち二人。
良い刺激を頂きました。