【前編】北イタリアの小さな暮らし|友を訪ねて
北イタリア、アルプス山脈モンブランの麓・アオスタ渓谷。
この旅の中で、寄りたかった場所だった。
遡ること2014年春。会社を辞め、達哉と入籍した当時。
一通のメッセージを受け取った。
大学の同期、エリちゃんからだった。
何度か同じ授業を取ったり、共通の友だちは多かったけど、特別親しかった訳ではない。
達哉くんのFacebookの投稿 [大切な日]を読んで、連絡をくれたのだそうだ。
オーストラリアをバックパック中に知り合った、アオスタ出身のパートナーと結婚して、アオスタに住んでいるという。
メッセージには「いつかできるだけ衣食住、自立した生活がしたい」「あるものを大切に」という言葉が入っていた。
在学中はお互い違う方向を向いていたのに、不思議なもので今になって似た価値観を共有している。
卒業後にこうして、ふとしたキッカケでもう一度繋がることが出来るとは。
そのやり取りから二年ぶりに連絡をしてみると、
エリちゃんと旦那さんはミラノに仕事を見つけて移り住んでいた。
そして、二つ返事で迎えてくれた。
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《ミラノ》Milano
街での生活
長距離バスでミラノに到着。
エリちゃんがわざわざバスターミナルまで迎えに来てくれた。
イタリアの太陽の強さのせいか、よく陽に焼けた首筋が眩しい。
轟音の鳴り響くメトロに乗って、アパートに向かう。
途中、近所のお肉屋さんに寄った。
顔馴染みのようで、親しげに会話を交わし、慣れた様子で生ハムとチーズを注文する。
肉屋の親父が、満面の笑顔で「試食してみろ!」と、生ハムを何枚も差し出す。太っ腹。
あぁ、すでにイタリア素敵だ。
アパートメントは、古いけれどきちんとメンテされている、可愛らしい建物。
エレベーターがないので、よいしょよいしょと五階まで階段を登る。
風通しのよい部屋からベランダを覗くと、お向かいさんお隣さんのベランダが近い。
一面に並んだベランダや窓から、生活の様子が丸見えだ。
「こういう昔ながらのアパートは、最近じゃもう珍しいんだよ。こうやって近所の生活の音が聞こえてくるの好きなんだ。よくベランダ同士で世間話もするんだよ」
少しして、旦那さんのステファノーが仕事から帰ってきた。
ステファノーは、優しくて穏やかな雰囲気を纏っていて、とっても気配り上手。
そこに、頓智とお茶目のスパイスが効いている。
「ようこそ!君たちが来るのを楽しみにしていたんだ、二人に聞きたいことがいっぱいあるよ!」
旅の疲れを吹き飛ばす、嬉しい言葉をたくさんくれる。
さっき買った生ハムとチーズを前菜に、夕食の相談。
「何が食べたい?」と聞かれ、
やっぱりイタリア一日目は「ピザ!」と達哉が即答。
夕方の街に繰り出し、二人が週一で通っているという美味しいピッツェリアへ連れてってもらう。
一人で一枚も食べきれるかな?と心配していると、
「慣れると一枚食べれちゃうよ。みんな一人一枚食べてるし、さらにデザートも食べるんだよ。もし食べきれなかったら、ミミだけ残せばいいんだよ」
と裏技を教えてもらう。
食後は、ピッツェリアの隣のジェラテリアに、スライド移動。
「この店は一番のお気に入りじゃないんだけど、美味しいはず」
はち切れそうなお腹を抱えながら、二段重ねのジェラートを片手に散歩。
「食後の運動。こうやってローマ門を横切りながらメトロの駅に向かうのが好きなんだ」
静かな夜の街を、会話と沈黙を楽しみつつ歩く。
非日常な旅が、日常になりつつある私たち。
日常の中の、ご褒美の日の感覚が、ふっと蘇ってくる。
二人のおかげで、久しぶりに寛いだ気持ちで眠りに就いた。
ミラノ観光
次の日から、休暇中のエリちゃんがミラノのお気に入りへ案内してくれた。
「ちょうど休暇の時期だから、ほとんどのお店は閉まってるし、ミラネーゼ(ミラノっ子)は見れないけど…。人が少なくていいかも」
ミラノは観光地だから、大きな街だからと、何も期待せず、下調べしてこなかった私たち。
なめてた…。
まず、ドゥオーモに度肝を抜かれることになる。
次にセメタリー(墓場) 笑
ビアレッティのお店!イタリアで買うって決めてたモカ購入。二人用と六人用。
コープ!O-リングオッケーのオーガニックチョコ!
楽しい!
楽しいご近所さん
ある日の朝、話し声で目が覚める。
ベランダの方から、イタリア語と英語の入り混じった会話が聞こえて来る。
「Skypeでもしているのかな?」と、うつらうつら考える。
朝食時に聞くと、どうやら、中庭を挟んでお向かいの建物の住人と、話し込んでいたらしい。
「その向かいの住人、マテオとルイージが今夜遊びに来るって」
二人はデザイナーで同じ会社に勤めている。マテオはパルマ出身、ルイージはアメリカ人だけどお婆ちゃんがイタリア人のクオーター。
夕飯を終えまだ宵の口ごろ、お土産に地元の赤ワインを提げて、賑やかに現れた。
ワインとオリーブをつまみながら、深夜まで話は尽きない。
トピックも、近況から始まって、好きなパスタの種類から政治まで。
ずっと笑いが絶えないのが、すごい。
ステファノーがおもむろに「よし、ゲームをしよう」と、みんなに質問した。
「さて、自分の国に移民は何パーセント住んでいるでしょう?」
みんな「ぜんぜん分かんないよ…」
ステファノー「いいから予想してみて!」
みんな「1%?」「20%?」「てか難民は入らないんだよね?」
ステファーノ「正解は、イタリア9%、アメリカ14%、日本2%でしたー」
私も含めてみんな、思ってた以上に少ない数字にビックリしていた。
暮らしのアンテナ
ステファノーは、何気ないように投げかけた問題だったけど、
きっと常日頃からアンテナを張っていて、みんなにも考えてもらいたかったことなのだろう。
聞くと、自分で信頼出来るジャーナリストを探して記事を購読したり、
The Guardianなど他の国のニュースもチェックしているらしい。
ヨーロッパに入ってから、頻繁に耳にするのが『難民』について。
イタリアは特に、アフリカ大陸に近い。毎日何百人ものボート難民が押し寄せているらしい。
ミラノの街を歩いてても、路上で日銭を稼いでいるアフリカ系黒人の若者をよく見かけるし、ミラノ郊外に難民シェルター建設という話も持ち上がっている。
イタリアに入ってから、難民への高い関心に驚いた。
必ずしもポジティブなものではないけれど…
「難民は、イタリア社会や文化に溶け込まない」
「ただでさえ仕事がないのに、難民が来たらよけいに仕事がなくなる」
「高い税金を払ってもまだ財政難なのに、難民を養う余裕なんてないよ」
などなど…
私からすれば、難民が絶えないのはそもそも西欧諸国が蒔いた種であって、
自爆っていうか、文句いう筋合いないっていうか…
でも日本の難民への対応知ったら、何にも言えなくなるけど…(悶々)
経済が上手くいっていないイタリア。
イタリアの人たちは、自分たちの生活の苦しさに、強い不満を持っているように感じた。
癒着や利権がらみの経済政策を隠すため、テレビや新聞で世論を煽る。
「難民がまた漂着した」「遺跡の発掘費、保存費」etc…
そうして、国民の怒りの矛先をそらす。
話題のすり替えは、どこの国でも行われているんだね。
ステファノーのように、自分で多角的に情報を得ること。
そして、受け売りするのではなく、消化すること。
大事だなぁと、改めて実感。
インターネットだと、自分の好きな情報しか読まない傾向があるので、反省。
この日は、ご近所さんとの有機的な時間と、気づきを分けてもらった。
緩やかなご近所づきあい、日本でも持てたらいいなぁ。
アオスタ編へ続く→
※移民データの参照元→Perils of Perception 2015
⭐︎難民問題を理解するのに参考にした記事↓
社会派ブロガーChikirinさんの日記。わかりやすくて、面白い!
第一回:理由はデータと総理大臣の認識
第二回:日本の難民認定基準、知ってます?
第三回:難民条約からインドシナ難民まで
第四回:トルコとミャンマーの違いとは
第五回:難民ってどーやって日本に来るの?
第六回:偽装難民についてはどう考えるべき?
第七回:外国人労働者と移民と難民の違い